
20代の初めの頃までの私は、あまりにも京都を打ち出しすぎた
雑誌の京都特集のページの中にしか存在しないような、
いわゆる「幻の京都」には目を向けたくないという変な意地がありました。
だから雪化粧をまとった金閣寺がどれほど幻想的なものなのか知りながらもずっと行くのを拒んでいたし、
同じように銀閣寺にも興味がないふりをしていました。
保津川下りもそう。本当はずっとずっとやりたくてうずうずしていたというのに。
でもそれは、大好物の食べ物を最後まで残しておくように、本物の良さがわかるようになるまでずっと
その楽しみをとっておきたいという思いからだと最近になってようやく分かりました。
今年も保津川下り春の川開きが始まったという知らせをきくと「今年もきたか」とひそかに心が弾みます。
さぁ、窓ガラスが取り外されたトロッコ列車「ザ・リッチ号」に乗って、トロッコ亀岡駅まで。
保津川とは、亀岡から山間の峡谷16キロメートルを流れて嵯峨嵐山までを流れる川のこと。
保津川の川下りは、川大名といわれた京都の豪商、角倉了以が水運を利用して豊富な丹波の物資を
京都に運ぶため巨費を投じて1606年に保津川を開削し、水路を作ったことにはじまります。
明治に入り、鉄道開通により水運としての役割は徐々に衰えていきましたが
明治28年頃から遊船として観光客を乗せた川下りがはじまり、再びその息吹をよみがえらせました。
静かな川の音に耳を傾け、頬をかすめる乾いた風に当たりながら、三人の船頭に操られた船は
ゆっくりと前へ進んでいきます。
やがて川の両側に巨岩がせまってくると、途端に船はすべるようにくねくねと嵐山の方に向かっていきます。
保津川峡谷の自然の美しさに魅了されながらも、空に舞い上がる水しぶきに
清流の持つ穏やかさと同時に自然の荒々しさを感じるのです。
